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私学マネジメントニュース(メールマガジン)配信
私学経営もスピードが問われる時代。教育や学校経営に関する最新情報は常にチェックし、自校の経営に活かす必要があります。
そこで、本協会では会員校向けにメールマガジンを配信。中高大の入試動向や教育行政の動き、人気校の気になる取り組みなど旬の情報をタイムリーにご提供します。


“新たな問い”を見出す小中高一貫の探究学習
大阪府高槻市に位置する関西大学中等部・高等部(以下:関大中高)は、2010年に関西大学3つ目の併設校として開校された新しい学校です。大学構内の13階建て校舎には、初等部から高等部までが一貫して設置され、小中高大を通じた一貫教育が実現されています。地域社会や企業等と連携した独自の探究学習が高く評価され、すでに関西の人気校の1つとして知られています。
今回は、関西大学高槻ミューズキャンパス開設準備委員から着任し、SGH推進部主任・研究開発部主任・中等部教頭を経て2023年4月より校長を務めている松村湖生先生にお話を伺いました。
関西大学の学是「学の実化(がくのじつげ)」を体現するため、初等部から高等部に至る各段階で独自の学校設定科目を導入しています。特に注目されるのは、思考力の育成と探究学習です。初等部では“ミューズ学習”を通じて6つの思考スキルを身につけ、その後、中等部・高等部で幅広く活用していきます。中等部の“考える科”では思考力の基礎を養い、総合的な学習の時間では地域社会の課題解決に取り組むプロジェクトが実施されます。生徒たちは、地域社会の課題を探り、その解決策を模索するためにフィールドワークに出かけ、実際に地域との連携を深めています。
高等部では、生徒が自らテーマを設定し探究する“プロジェクト学習”を展開。高校1年のはじめにLIXILや関西電力、サラヤ、竹中工務店などの企業の講師を招いた“関大SDGsフォーラム”を実施。初年度の2017年度には14の企業・団体が集まりましたが、松村校長の熱心な企業誘致の甲斐あって、今年度はその数が23に増加。多種多様な企業・団体のSDGsの取り組みから自らの興味関心の所在を明確にした生徒は、政治/国際協力/都市環境/危機管理…といった10のゼミに分かれて探究を進めます。ゼミは高等部の教員1名と関西大学の教員1名による二人三脚の指導。生徒たちは個人研究に取り組み、高2の最後に卒業論文を執筆します。高3では卒業研究発表会で研究成果を発表し、大学教員からのフィードバックを受け、大学での更なる深い学びに続いていきます。一連のプロジェクト学習において、調査協力や課題解決のために連携した企業・団体等は中高合わせて年間90団体を超えます。
今年度に人間系列国際協力ゼミで優秀論文及び最優秀発表者に選出された生徒は、高1のゼミ活動を通じて、ネパール山間部の小民族の伝統的な暮らしに西洋技術を流通させたことで人々の生活が変わり、自然が持つごみの分解作用の限界を超えたことで恒常的な環境汚染が起きた事実を学びました。そして「他国の企業の製品が流通するような国際化、先進国からの支援は必要なかったのではないか?」という新たな問いを見出し、高2のゼミ活動ではこの問いを医療分野に向けました。具体的に「多民族の伝統医療に西洋医療や保険制度を導入することで医療のバランスが崩れるのではないか」というテーマを設定し、夏休みを活用してインドネシア・バリ島でフィールドワークを実施。現地調査や在留インドネシア人へのインタビュー等を通じて、医療と宗教・死生観の密接な繋がりや、保険制度が十分に機能しない問題ゆえに伝統医療と医療が混在している現実を明らかにする論文発表を行いました。
こうした一連の探究学習ついて、松村校長は「『んっ?』と引っ掛かりを感じたことについて、情報収集しながら“新たな問い”を見出していくという繰り返しが大事。初等部は身近なものから入っていくけど、中高になるにつれて“より深く、調べたからこそ生まれる問い”を持つことが探究する力になる」と問いを見出すことの重要性を強調します。また、「普段から先生がクリエイティブな発想のもとで授業を創っていかないといけない。本校ではそこを強くしていくのが次のステージ」と語ります。
関大中高の探究学習のような学びを継続していくために、各教員のスキルアップは不可欠です。松村校長は2024年度の重点項目に校内研修の充実・自己研鑽の推奨を掲げました。まず、年2〜3回だった校内研修を6回に増やし、ロールプレイ型の研修では、教科関係なく若手から熟練の教員までがコミュニケーションをとりながら互いに学ぶことができました。また、自己研鑽を推進するため、各教員が参加した外部研修の受講履歴の収集・蓄積を始めました。教員の負担にならないよう、詳細なレポートは求めず日時・行き先・研修内容の簡素な報告に留める配慮をしています。報告内容をもとに研修内容を11のカテゴリーに分類し、各教員の興味・関心が高い分野や長所の把握に役立てています。こうした取り組みの成果で、2025年1月時点で約50名の教員がのべ400回以上の外部研修に参加。松村校長は「すすんで研修を受ける先生が間違いなく増えた。来年度は新しい校内研修をやったり、皆さんがもっと研修に行ける予算取りをしたりしていきたい」と確かな手ごたえを語ります。
松村校長の2025年度の抱負は“学校のブランド力アップ”。そのために確かな学力の定着、特色ある教育活動と進路指導の充実、そして教員のスキルアップに重点的に取り組むとのこと。関大中高のブランドを発信していく入試広報の強化にも意欲的です。「なるべく学校を公開し、たくさんうちの学校に足を運んで実際に生徒と教員を見ていただきたい」と熱く語る松村校長の言葉には、生徒が自ら問いを見出したときと同等以上の力強さが感じられます。
コアネット教育総合研究所 神戸研究室 佐々木暢